「いやあああ!」
救急搬送されてきた患者の顔が露わになった瞬間、研修医が叫び声を上げた。
ストレッチャーの上に心肺停止の状態で横たわっていたのは、当直の救急医・武田航に瓜二つの男だった。
航に兄弟はいないが、母子手帳を見ると妊娠中の診察記録の1行目だけが「生島病院」となっていた。
現「生島リプロクリニック」の理事長・生島京子は、日本における体外受精のパイオニアだった。
山口未桜さんの『禁忌の子』を読みました。
あらすじ
兵庫市民病院救急科の医師・武田航が当直の夜に搬送されてきた患者「キュウキュウ12」は、顔も身体的特徴も武田に瓜二つだった。
中学の同級生で同じ病院の消化器内科の医師・城崎響介の力を借り、武田は体外受精で得られた受精卵を胚盤胞まで培養してから子宮内に移植する胚盤胞移植のパイオニア・生島京子に辿り着くが、指定された日時に訪れると、京子はクリニックの理事長室で首を吊って死んでいた。
武田はDNA鑑定を依頼し、「キュウキュウ12」と自分が双子であることを知る。
感想
第34回鮎川哲也賞受賞作にして、山口未桜さんのデビュー作です。
愛野史香さんのデビュー作『あの日の風を描く』も凄い作品だと思いましたが、こちらも負けず劣らず。
ミステリが大好きな主治医から紹介してもらったのですが、その時点で私もチェックしていて、図書館に予約を入れていました。
いつもは知らない作品を教えてもらうのですが、今回は私も知っていたよんって。フフッ。
たぶん、この作品を読んでいる間、クスッとも笑わなかったんじゃないかと思います。
真剣にぶつかって来られるため、こっちも真剣に読むって感じで。
これだけ集中して本を読んだのは、久しぶりな気がします。
出だしから専門用語のオンパレードだったので、ちょっと構えてしまったのですが、救急医療の緊迫感を表すためだったらしく、その後は聞き慣れない専門用語はなく。あったとしても、丁寧な説明付きでした。
選評で麻耶雄嵩さんが指摘されていたように、生島京子の密室殺人の部分に物足りなさを感じましたが、テーマの選び方やストーリーの組み立て、スピード感、緊迫感、場面場面の描写など、デビュー作とはとても思えないどころか、ベストセラー作家の作品だと言われてもわからないんじゃないかと思うような書きっぷりでした。
この作品を、午前4時に当時1歳だった娘さんの泣き声で目を覚ましたときに思いついたというのですから恐るべし。
その時にどこまで考えておられたのかはわかりませんが、謎が謎を呼ぶ展開で、最後にするっとすべての謎が解かれる展開に引き込まれてしまいました。
結末は好みが分かれるところかも知れませんが、私は好き。
もっとこういう結末があっても良いんじゃないかと思っています。
自分の知らないところで双子の兄弟がいるという話は、最近だと辻堂ゆめさんの『二重らせんのスイッチ』で読んだでしょうか。
それ自体に新鮮味は感じなかったものの、第4章のタイトルになっている「分数」というところに繋げたのがキーポイントでしたね。
もっとも、私はその時点で誤った方向に推理を進めてしまいましたが…
「本格推理」という言葉がぴったりとくるような作品になっています。
じっくりとミステリと向き合いたい方にオススメです!
蛇足ですが、舞台となった鳴宮市は、私が生まれたところなんだろうなと思いながら読ませていただきました。
コメント