東野圭吾さんの『クスノキの番人』を読みました。
あらすじ
直井玲斗は、住居侵入、器物破損、窃盗未遂の罪で起訴されそうになったところを、柳澤千舟に助けられた。
千舟は母の腹違いの姉だったが、玲斗には千舟と会った記憶はなかった。
玲斗は千舟から、神社の御神木であるクスノキの番を命じられる。
直径5mもあろうかというそのクスノキには、幹の内部に洞窟のような空間があり、新月と満月の前後の日に、祈念する人が訪れていた。
感想
東野圭吾さんは「匂わせる」のがうまい作家である。
以前から思っていたことですが、東野圭吾さんの作品には、話が停滞しかかったところで、読者に「これは、こういうことなのかも!」と思わせるポイントが仕掛けられています。
そして、「うふふ。わかっちゃったかも」と思った次のタイミングで、その通りの流れになり、それが東野圭吾さんによって仕組まれたものだということに気づくのです。
もちろん、思っている方向とは違う方向に話が進み出したり、なかなか答え合わせがなされなかったりすることもあるのですが、まるで読者の気持ちになって書かれたかのような文章に、たびたび舌を巻くことになります。
この作品は、ひと言で言ってしまうと、「不思議なクスノキの番人をする話」で片づけられてしまうのですが、その話が面白い。
殺人の「さ」の字も出てこないのですが、ガリレオシリーズや加賀恭一郎シリーズと並べても見劣りしない出来の良さ。
東野圭吾さんの多才さにはいつも驚かされます。
いや、これくらいのジャンルを書き分けることができる作家さんは他にもいると思うのですが、これまで評価を受けてきたジャンルから離れたところで勝負できる度胸がすごいなぁと思ってしまいます。
この流れだと、最後は泣くかなぁと思いながら最終章を迎えたのですが、驚きの方が大きくて、ついつい泣くのを忘れてしまいました。
じっくりと読みたい作品ですが、面白くてページをめくる手が止まらないというのが現実です。
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