オルゴールが壊れて、全然違う曲が流れるようになることって、ありますか?
アンティークオルゴールの蒐集家で、オルゴール修復師・雪永鋼のお得意様である遠江早苗から紹介された飯村睦月は、父の形見であるオルゴールを手にそう尋ねた。
父が亡くなる1週間前、オルゴールを聴きながら涙を流していたのだが、その時流れていた曲と、オルゴールが奏でる曲が異なっているという。
太田忠司さんの『レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿』を読みました。
あらすじ
夏の名残のバラ
雪永鋼はうつ病を患い、1人で工房で作業ができるオルゴール修復師の道を選んだ。
鋼はお得意様でアンティークオルゴール蒐集家の遠江早苗から、1人の女性を紹介される。
その飯村睦月は、父が亡くなる1週間前に書斎でオルゴールを聴きながら涙を流していたのだが、そのオルゴールが奏でる曲と、父が聴いていた曲が異なるという。
鋼はそのオルゴールが順に3曲を流すタイプであるにもかかわらず、曲を変更する機構が故障していることをすぐに見抜き修復するが、睦月の父が聴いていたという曲は収録されていなかった。
感想
オルゴールというと、小さな箱の中に入ったものを想像される方がほとんどだと思いますが、私は「六甲オルゴール博物館(現・ROKKO森の音ミュージアム)」に2、3度行ったことがあり、作品の中に出てくるアンティークオルゴールや、からくり人形付きのオルゴールを見たことがあります。
1938年製、高さ約4.6m、幅約7.8mの世界最大級のダンス・オルガンなど、これがオルゴールなの?と、世界観が変わりました。
太田忠司さんによると、ラジオが普及するまで、オルゴールが音楽を楽しむための手段だったのだとか。
「うつ病」というのが、この作品を読む上でのポイントになっていると思いますが、どう捕らえるかですね。
私はちょっと客観的に見ることができないのですが、鋼がうつ病であることが物語に不可欠なのか?と考えると、なくても良い気もしますが、物語に影を落とすアクセントになっています。
それも、暗い影だけでなく、物語を明るい方向に向けているところも。影があるから、明るさが際立つのでしょうか…
そんなことを考えていると、最後の『わが母の教えたまいし歌』でうつ病が大きなウェイトを占めてくることになります。
作品は終始優しいタッチで描かれており、それこそオルゴールの音を遠くで聴きながら読みたくなるような作品でした。
鋼がオルゴールにまつわる謎を解いていく、5編の短編から成る連作短編集ということになると思うのですが、5章からなる長編として読んでも良いかも。
続編として「夜想曲」があるようなので、近いうちに手に取ってみたいと思います。
収録作品
『夏の名残のバラ』のほか、『秋の歌』、『冬の不思議の国』、『春の日の花と輝く』、『わが母の教えたまいし歌』が収められています。
秋の歌
鋼は喫茶店のウェイトレスからオルゴールの修復を依頼される。
母子3人が暮らす家が火事になり、母が亡くなったときに家から持ち出した形見のオルゴールだという。
冬の不思議の国
鋼がオルゴール修復の技術を学んだ師匠・灘本が修復したオルゴールがたった2年でふたたび故障した。
その修復を依頼された鋼は、オルゴールの中に灘本が残したメッセージを発見する。
春の日の花と輝く
飛び込みの客が持ち込んだオルゴールには、曲を記録したディスクの突起が弾いて音を鳴らす櫛歯がなかった。
その他の部分も傷んでおり、鋼は新しいオルゴールの購入を勧めるが…
わが母の教えたまいし歌
睦月の兄で親から継いだ会社の社長をしている宏海が、駅のホームから転落した。
宏海は会社を守ることに邁進する中で、本人の自覚がない内にうつ病を患っていた。
後継者として睦月に白羽の矢を立てられ、同じくうつ病の鋼との交際を止めるように言い渡される。
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