「やられたから、やりかえしただけ。これでおあいこです」
当時15歳だった少年Aは、Xに暴行を加え死に至らしめた。
少年Aは傷害致死の罪で少年院に入院したが、わずか1年3ヶ月で退院した。
Xの母は、退院した少年Aに関する情報を、少年Aと同じ少年院に入院していた少年Bから得て、少年Aを殺害する。
新川帆立さんの『目には目を』を読みました。
あらすじ
当時15歳だった少年Aは、Xに暴行を加え死に至らしめたが、16歳未満であったため少年法に基づいて裁かれ、わずか1年3ヶ月で少年院を退院した。
Xの母は、退院した少年Aの情報に懸賞金をかけ、少年Aと同時期に少年院に入っていた少年Bから情報を得ることに成功。少年Aが暮らす会社の寮の部屋でXのかたきを討つことに成功する。
元雑誌のライターだった刈谷苑子は、手記として刊行するために、少年院で少年Aと同じ班だった人たちや関係者に取材を行う。
感想
私がこれまで読んだ新川帆立さんの作品は、「弁護士剣持麗子シリーズ」や「競争の番人シリーズ」など、登場人物のキャラクターが濃い作品ばかり。
それらと比べると、この作品の登場人物は地味な人が多くて…
調子が狂うというか、なんだかリズムに乗れないまま半分以上まで読み進めていきました。
そういえば、新川帆立さんに限らず、最近登場人物のキャラクターが濃い作品を読むことが多いかなぁ。
犯罪を犯し、少年院に入院する少年たちは、弁護士でもある新川帆立さんの目にこのように映っているんだなぁと思いながら読んでいました。
案外普通の子と変わらない?とも思ったのですが、やっぱり犯罪を犯すにはそれなりの理由があるようで。
その一方で、誰もがその一線を踏み越える可能性があるのかな?とも思いました。
そこで踏みとどまることができるかどうかが、人生を分けるのでしょうが、私がその一線を踏み越えたことがないのは、”運”に恵まれていたということもあるのかも。
自分の子供が殺害されたにも関わらず、わずか1年3ヶ月で少年院を退院するということを、親として許せないという気持ちはよくわかります。
子のかたきを討つという気持ちも理解できるなと思ったのですが、
命を奪われた以上、命を奪い返すと決意して、犯行に及んだ。ということは、異なる二つの命は平等であることを前提としている。Xの命を惜しむのであれば、Aの命だって惜しむべきだ。
という文章を読んで、頬を叩かれたような気分に。
「目には目を、歯には歯を…」というのは有名なハンムラビ法典に所以する言葉ですが、自力救済や報復を認めているわけではないんですよね。
残り3割くらいのところで思わぬ展開が。
こんなに早いタイミングでどんでん返し?と思ったのですが、起承転結の”転”だったんですね。
どんでん返しを得意とする中山七里さんや下村敦史さんをはじめ、どんでん返しものを読むことが多いので、ついつい思考がそっちの方向にいってしまいます。
最後にすべてをひっくり返すようなどんでん返しは読後感は良いものの、その後を続けなくても良いので、強烈な意外性を与えれば良いという考え方もできます。
文章の基本である起承転結をつけた構成の方が難しいのかな?とも思うのですが、そのあたりは作家さんの得意不得意にも依るのでしょうね。
少年犯罪や犯罪者の更生に焦点を当てた作品。弁護士でもある新川帆立さんが、少し離れた場所からクールに描いたような印象を受けました。
直接的に疑問や解を投げかけられているわけではないのですが、いろいろと考えさせられる作品でした。
また、少年院の中での生活も、知っているようで知らなかったなぁと…
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