・HIPSに入会すると、月々一定の額が給付されます
・金銭的報酬をともなう一切の労働を禁止します
AIによる資金運用で、会員たちの生活費を賄う扶助団体〈HIPS〉。
会員たちはAIによる完璧な監視下に置かれているはずだったが、数々の不穏な出来事が発生する。
岡崎琢磨さんの『HIPS 機械仕掛けの箱舟』を読みました。
あらすじ
労働は禁止するが生活は保障する。
経済が停滞する日本に突如現れた扶助団体〈HIPS〉。
AIによる資金運用で、会員たちの生活を賄うが、1度脱会する/させられると2度と入会することはできない。
憲法に定められた、健康で文化的な最低限度の生活を保障する〈HIPS〉だったが、その周囲では数々の事件が発生する。
感想
なかなかユニークな設定の作品です。
AIの資金運用によって会員の生活費を補償するという点は理解できるのですが、労働禁止というところが…
なんでも、AIの予測不能な経済活動を極力減らすというのが理由なのだそうですが、〈HIPS〉会員は最初の2年で全人口の5%。その後増えたとしても数十%だと思うのですが、会員による経済活動が与える影響がはたしてどれくらいあるのか…
まぁ、少しでも少なくしたいということなんでしょうね。
メリット、デメリットは様々でしょうが、低所得者層を救う方法としてはよくできた方法と思われます。
ただ、最終話にあるように、一旦崩壊してしまうと国中がパニックに…
ハイリスクハイリターンであることは否めませんね。
その代わりに出てきた「ベーシックインカム」という言葉。
私ははじめて耳にしたのですが、少し勉強しておいても損はないもののようです。
経済のことはよくわかっていないのですが、いつまでもそんなことを言ってられませんしねー。
〈HIPS〉にまつわる5つの短編が集められた短編集になっていますが、どの話も最後にアッと言わせる結末が用意されていて、面白かったです。
最後は夜更かししながら一気に読んでしまいました。
機会がありましたらぜひ。
収録作品
『悪魔の救済』、『殉教者』、『神風』、『聖人』、『沈む箱舟』が収められています。
悪魔の救済
特殊詐欺の受け子として逮捕されたことがある『てっちゃん』こと南哲弥は、スラムと化した歌舞伎町の”劇奥”で、〈HIPS〉会員の勧誘活動を行っていたが、車椅子の少女の父親が首を吊って自殺するという事件が発生する。
殉教者
実質的な〈HIPS〉の広告塔である東條真澄は、〈HIPS〉入会前にホスト通いをしていたことをネタに金を強請られてしまう。
真澄はパネルディスカッションの最中に殺害されたと見せかけて、強請屋を殺害する。
神風
台風が直撃した朝、不破小夏のスマホに友人の森崎ルルから「いますぐ学校に来て」というメッセージが入る。
慌てて学校へ辿り着くと、ルルが屋上から身を投げるところだった。
ルルは先月母とともに入会していた〈HIPS〉を退会していた。
聖人
〈HIPS新党〉の代表・関口奏子が自宅の前で何者かに轢き逃げされた。
捜査線上に、当日近所の公園の前に車を停めていた高鍋健晋が浮上するが…
沈む箱舟
〈HIPS〉が突如崩壊した。〈HIPS〉が保有する金融資産が軒並み暴落したのだ。
そんな時、看護師の栗原三宇のもとを新聞記者の奥村が訪ねてくる。〈HIPS〉の創始者が三宇の叔父・三琴凪ではないかと言うのだ。
コメント