彼はナチュラルなのか、それともユーザーなのか?
男性アイドルグループに所属する大峰颯太が、ボディービルの大会で3位に入賞した。
専門家は3ヶ月前の大峰の写真と大会での写真を並べ、ドーピングを行わなければ、たった3ヶ月でこれだけの筋肉を手にいれることはできない。大峰は”ユーザー”だとSNSで叩いたが、大峰はドーピングを行っていない”ナチュラル”だと言い切る。
日野瑛太郞さんの『フェイク・マッスル』を読みました。
あらすじ
K-POP系男性アイドルグループに所属する大峰颯太が、わずか3ヶ月でマッチョな身体を手にいれ、ボディービルの大会で3位に入賞した。
専門家は、3ヶ月でこれだけ筋肉がつくことは考えられず、筋肉増強剤アナボリック・ステロイドを使用していると指摘するが、大峰はドーピングは行っていないと反論する。
『週刊鶏鳴』の記者・松村健太郎は、大峰がプロデュースしてオープンしたジムに潜入し、ドーピングの証拠を手にいれようと模索する。
感想
第70回江戸川乱歩賞(2024年)の受賞作です。
作者の日野瑛太郞さんは4回連続で最終候補に残り、”4度目の正直”での受賞となりました。
江戸川乱歩賞は、推理作家への登竜門、新人賞という位置づけになっているように、日野瑛太郞さんのデビュー作ということになります。
しかし、デビュー作とは思えないような安定した文章。
ユーモアを織り交ぜながら飽きの来ないストーリー展開になっていました。
日野瑛太郞さんのプロフィールを調べてみると、人気ブロガーであり働き方に関する書籍も数冊出されている方のよう。
どおりで文章を書き慣れておられるんですね。
ストーリーは流れるようで、一気に読ませてくれるのですが、欲を言うともう少し起伏が欲しかったかな?という気がしました。
ちょっと順調にいきすぎ、想定の範囲内、みたいな…
クライマックスではピンチもやってくるのですが、じっくり読ませてもらうというよりはTVドラマ的といった方が良いでしょうか。
やはり、もう少し波乱があっても良かったのでは?と感じました(欲を言えばというレベルの話ですが)。
後日譚は見事。
大峰颯太がたった3ヶ月で筋肉をつけた理由を明らかにするのはもちろん、それによって被害者を産まないようにする方法は見事でした。
このケリのつけ方がなくても、物語としては十分成り立ったと思うのですが、この部分によって読後感がずいぶん変わったんじゃないかなと思いました。
デビュー作でこの仕上がり。
今後が恐ろしい作家さんのような気がしてなりません。
要チェックですね。
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