安生正さんの『生存者ゼロ』を読みました。
あらすじ
根室沖に浮かぶ石油掘削プラットフォームからの連絡が絶たれた。
嵐の中プラットフォームへ降り立った陸上自衛隊の廻田三佐は、職員全員が死亡しているのを発見する。
感染症学者の富樫は感染源の究明にあたるが、同業者からの抵抗を受けている内に、北海道本土で同じ悲劇が繰り返されてしまう。
感想
第11回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作です。
良くも悪くもハリウッド映画的と言いたいところですが、悪い意味でハリウッド映画的かな。
根室沖の石油掘削プラットフォームで謎の感染症が発生、北海道への感染エリア拡大、自衛官の孤軍奮闘、新たな味方の登場、予想外の危機、対決と、そのまま映画にしても良いんじゃないかなぁと思うストーリーなのですが、文庫で480ページもあるのですから、もう少し捻りが欲しかったかなぁ。
次に起きることが手に取るようにわかり、キャストを見たかの如くひと目でわかるキーパーソン。
それが悪いとは思いませんが、驚きがなかったのは確かです。
また、作品中で、局地的な爆発的感染に対して「パンデミック」という言葉を使っていますが、「パンデミック」という言葉は、世界的大流行を指すので、この使い方は誤り(私も、新型コロナウイルスが出始めた頃に、息子から教えられたのですが…)。
そんなところも惜しいなぁって。
また、今回の”敵”が、外敵の接近に敏感で、はじめに廻田が石油掘削プラットフォームへ足を踏み入れたときには、物陰に身を隠していたと言うわりには、その後はむしろ正反対の行動をしていたり…
さらに、市内から車で避難しようとする人たちのせいで、道路が大渋滞になって身動きがとれなくなっているはずなのに、警察車両や自衛隊の車両が道路を行き来していたりと、いくつか矛盾が見られたのも残念。
あと、国立感染症研究所の鹿瀬部長については、もっと派手な没落の仕方を用意しても良かったのではないかな?と思いました。
血祭りに上げるには、最適な人物だったと思うのですが…
最後の決着のつけ方は見事。
キーパーソンはわかっていたものの、それを十二分に活かした方法を持ち出したところは、よく見つけ出したなぁと、感心してしまいました。
なんだか、ネガティブな感想ばかりになってしまいましたが、『このミス!』大賞を受賞しているだけのことはあって、面白い作品です。
ハリウッド映画のパニックものが好きな方なら、きっと気に入るのではないかと。
新人賞だけあって、若さが見え隠れしてしまいましたが、この分野で伸びていかれる方じゃないかなぁと思います。
事実、著書を検索してみると、同じような分野の作品を書き続けておられるようですね。
1度手に取ってみようかと思います。
コメント