米澤穂信さんの『王とサーカス』を読みました。
あらすじ
新聞社を辞めてフリーのジャーナリストに転身した太刀洗万智は、海外旅行特集の事前取材のため、ネパールへ向かう。
現地で知り合った少年・サガルに案内されて、首都カトマンズの街を取材していたところ、国王崩御の知らせが入る。
国王は宮中晩餐会で皇太子によって暗殺され、王家の死者の数は6名とも8名とも12名とも言われるなど、混乱を極める。
さらに、この事件を取材するために万智が接触した軍の准尉・ラジェスワルが殺害されてしまう。
感想
2001年6月に実際に起きたネパール王族殺害事件(ナラヤンヒティ王宮事件)を題材にしているためか、読んでいても見えない力でぎゅーっと押さえつけられているような、重い空気が流れています。
国王をはじめとする王族方が殺害され、犯人とみられる皇太子は自殺を図るという混乱の中で、いかに自分を保つか、記者の本質とは何かといったことが問われることになります。
万智が巻き込まれてしまった殺人事件の謎を解き明かすというのも1つの目的ではありますが、探偵小説とは一線を画しています。
事件を解決するということの、2歩も3歩も先に、この小説で言いたいことが隠されていると言えば良いでしょうか。
最後にサガルが言い残した言葉、それを受けて万智が考えたことは、非常に重かったと思います。
『さよなら妖精』に登場した太刀洗万智が主人公ということで、「太刀洗万智シリーズ」に分類されるようですが、『さよなら妖精』の内容とは連続性がありません。
ユーゴスラヴィヤから日本に来た少女・マーヤを回想する記述が1つ2つある程度です。それらしい記述を見つけたら、『さよなら妖精』に出てきた少女のことなんだなぁと思っていただければ…
少し重い読書になってしまいましたが、読み終えたあとの充実感は格別。
もし機会があれば、手に取っていただけたらなぁって思います。
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