【読書】石持浅海『賛美せよ、と成功は言った』

石持浅海 碓氷優佳シリーズ ├ 石持浅海

トーエンの誓い。
高校3年生のとき、同じ予備校に通う仲間たちは、誰かが夢を叶えたとき、全員で祝おうと約束した。
それから15年、夢を叶えた湯村勝治を祝う会が設けられたが、その席で神山裕樹が元予備校講師の真鍋宏典を殺害してしまう。
なぜ神山は真鍋を殺害したのか。神山が連行されたあと、残りのメンバーでヒリヒリとする心理戦が繰り広げられる。

石持浅海さんの『賛美せよ、と成功は言った』を読みました。

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あらすじ

高校3年生のとき、予備校の仲間たちが夢を叶えたら全員で祝おうと誓いあった。
それから15年、商社に就職した湯村勝治が、社内ベンチャー制度を利用して、夢だったロボット開発事業で、経済産業省の日本ベンチャー大賞を受賞した。
しかし、その祝いの宴の最中、神山裕樹が元予備校講師の真鍋宏典をワインの瓶で撲殺してしまう。
祝いの会に参加した碓氷優佳は、湯村の妻・桜子が神山の行動を予測できたにもかかわらず、制止しなかったことに気づく。

感想

「碓氷優佳シリーズ」の5作目です。
前作『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』では、優佳が高校生だった頃のエピソードをまとめた短編集になっていましたが、本作では時間を現在に戻し、前作にも登場した武田小春(新姓・上杉)の目線で話が進んでいきます。

「碓氷優佳シリーズ」は、前作を除いて、最初に殺人のシーンから始まる倒叙形式になっていましたが、これまでが完全犯罪を目論んでいたのに対し、この作品では仲間たちの目前で殺人事件が発生します。
何か起きたかは明らかなので、事件の背景が問題になるという流れになるのでしょうが、今回は真鍋のアドバイスで成功した湯村と、勤めている製薬会社のデータ改ざん問題で夢を見失った神山という構図。
碓氷優佳は、湯村の妻・桜子が事件を予測できたにもかかわらず止めなかったことを問題視しているようなのですが…

たまに、このような犯人も動機もわかっているという作品に出会うことがあるのですが、正直、記憶に残っている作品ってないんですよね。
それくらい難しいストーリー展開に挑戦しておられるのでしょうが、この作品も、記憶に残るものかどうかと考えると、残念ながら…となってしまうでしょうか。

この話の見どころは、事件の背景ではなく、碓氷優佳と湯村桜子のヒリヒリとした心理戦です。
真鍋が搬送され、神山が連行されたあと、残りの8人が真鍋を悼むために杯を交わすことになるのですが、桜子が自分の言動が真鍋殺害に繋がった事実から離すように発言し、優佳がそれを修正しようとするというやりとりが繰り返されます。
それを、春子の目線で解説を交えながら読むことになるのですが、他の参加者たちを知らず知らずのうちに誘導しようとする巧みな言い回しが面白い。
静かな場所で、じっくりと読むと、その心理戦に引き込まれていくのではないかと思います。

前作あたりから、優佳の冷血さ、事件を解くことが目的であって、事件を解いたあとのことは何も考えないという性格が目立つようになってきましたが、今回も目的を達するためには手段を選ばないといった姿勢が見られます。
また、最後から6行目を読んだときには、息が止まるかと思いました。
その人って…
ある意味、優佳らしい選択なのかもしれませんが…

コメント

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