『聖域』や『生還 山岳捜査官・釜谷亮二』などの山岳ミステリを過去にも発表してきた大倉崇裕さんの、山に対する愛情が詰まった1冊。
主人公は、琴乃木山荘でアルバイトをする棚木絵里。
過去の山岳ミステリのようなガチガチの作品ではなく、琴乃木山荘で働く人たちや登山客らと、そこで起きる不思議な出来事を、絵里の優しい目を通して見るような作品になっています。
大倉崇裕さんの『琴乃木山荘の不思議事件簿』を読みました。
あらすじ
『彷徨う幽霊と消えた登山者』
竜頭岳登山の要衝である琴乃木山荘。
ここでアルバイトをする棚木絵里は、ピークが過ぎて宿泊客が0人になったある日、同じアルバイトの斉藤あゆみから、2晩続けて幽霊を見たと聞く。
さらに、3日続けて同じ場所を登ってくる男性の幽霊まで見たという。
感想
大倉崇裕さんの山に対する愛情がたっぷりと注がれた作品になっています。
『聖域』や『夏雷』のような、ガチガチの山岳ミステリにはなっておらず、肩の力を抜いて読める作品になっています。
そこには、棚木絵里を主人公に持ってきたことが大きく影響しているのではないかと。
探偵役は、琴乃木山荘で働く石飛匠。
石飛にしても、「ザ・探偵」といった雰囲気ではなく、人生経験の豊富さで答えに行き着くといった感じです。
読み心地が良くて、一気に読んでしまいました。
『彷徨う幽霊と消えた登山者』のほか、『雪の密室と不思議な遭難者』、『駐車場の不思議とアリバイ証明』、『三つの指導標とプロポーズ』、『石飛匠と七年前の失踪者』、『竜頭岳と消えた看板』、『棚木絵里と琴乃木山荘』が収められています。
『雪の密室と不思議な遭難者』
琴乃木山荘の離れから、高熱を出した遭難者が見つかったが、離れの前の雪に踏み荒らされたあとはなかった。
男は寝袋とロウソクくらいしか持っていなかったが、いつから、何のために離れにいたのか?
『駐車場の不思議とアリバイ証明』
石渡匠は、1年前、大樂小屋の駐車場に車を駐めて竜頭岳に登ったところ、下山すると車の駐車位置が変わっていたという相談を受ける。
『三つの指導標とプロポーズ』
喜代の湯から琴乃木山荘までのルート上にある3ヶ所の要注意箇所に立てられた指導標が、3年連続で方向を変えられるなどの事件が発生した。
『石飛匠と七年前の失踪者』
7年前に福島県の嶺雲岳で失踪した河内のパーティー3人が、琴乃木山荘に集結した。
4年前から琴乃木山荘で働く石渡匠が、河内に似ているというのだが…
『竜頭岳と消えた看板』
20kgもある琴乃木山荘の看板がなくなった。
見つかったのは、竜頭岳のピーク。
誰が、何のために、どうやって盗み出したのか?
『棚木絵里と琴乃木山荘』
絵里が以前働いていた小さな出版社の編集長・江島里水が、2年前、絵里宛に暗号付きのメールを送ってきたあと、事故死した。
絵里は未だにその暗号が解けずにいる。
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