赤川次郎さんの『赤いこうもり傘』を読みました。
高校生でT学園のオーケストラのコンサート・マスターを務める島中瞳は、帰宅途中の電車の中で、ヤクザ2人が女性に絡んでいるところに出くわす。
勇気を持った若者が止めに入るが、逆にやられてしまう。
それを見た瞳は、つかつかと2人のヤクザに歩み寄ると、手にしていた赤いこうもり傘で2人をやっつけてしまう。
なんとなく、次の駅で電車を降りた瞳と若者・裕二は喫茶店に入るが、瞳が席を外したすきに、ヴァイオリンをすり替えられてしまう。
ヴァイオリンをすり替えられたことに憤慨する瞳だったが、瞳の手元に残ったヴァイオリンは、名器ストラディバリウスだった!
さらに、来日中のイギリス国立オーケストラが移動中、ヴァイオリンとヴィオラ合わせて12台が盗難に遭う。
来日するイギリス女王を招いての演奏会まで1週間。
盗まれたヴァイオリンとヴィオラを取り返すことはできるのか?
赤川次郎さんの造詣が深い、音楽をテーマにした作品です。
赤川次郎さんが持つ音楽に関する知識が、そこかしこに散りばめられていて、作品に深みが生まれています。
物語の雰囲気は、他の作品とは少し異質な感じがします。
軽やかで、テンポが良く…と言うと、他の作品と同じような気がしますが、明らかに意識して、普段とは違った雰囲気が与えられています。
読者層を、中高生あたりに設定したのかな?とも思ったのですが、それもちょっと違うような…
私の文才では、うまく表現できません。
オーケストラの荷物から、ヴァイオリンとヴィオラの名器12台が盗まれるという突飛な設定ですが、事件のスジ自体は、特筆するものはないでしょうか。
この作品は、個性溢れる登場人物たちによって、魅力的な作品へと仕立て上げられています。
音楽をテーマにすると、なぜ、これほどまでに登場人物たちが輝くのか?と聞きたくなるくらい、異彩を放った作品に仕上がっています。
プロローグには、ドーヴァー海峡の連絡船が出てきます。
――ロンドンからパリへ向かう列車を丸ごと飲み込んだ――という記述が出てくるのですが、1994年に英仏海峡トンネルが開通し、ユーロスターが運行されているので、現在では見られない景色かも知れませんね。
青函連絡船みたいなものでしょうか。
また、作品中では、ヴァイオリンやヴィオラの工房がある町として、イタリアのクレモナの名前が出てきます。
クレモナと言えば、スタジオジブリによって映画化された『耳をすませば』の中で、天沢聖司がヴァイオリン作りの修行の地として選んだことが思い出されますね。
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