被告はなぜ嘘を吐くのか?
道塚昌平は、ランクⅢの認知症を患う母・須恵の首を絞めて殺害した。
徒歩で逃走した道塚は、遺体発見から2時間後に5km離れた場所で発見された。
一件記録を読んだ検事の佐方貞人は、成年男性であれば2時間あれば9kmくらい離れた場所まで逃走できたはずだと違和感を感じる。
柚月裕子さんの『検事の信義』を読みました。
あらすじ
『信義を守る』
ステージⅢの認知症を患う母を絞殺したとして、息子の道塚昌平が逮捕、起訴された。
公判を担当する米崎地検公判部の佐方貞人検事は、現場から徒歩で逃走した道塚が、遺体発見から2時間後に5kmしか離れていない場所で身柄を確保されたことに違和感を感じる。
道塚は社内でトラブルを起こして仕事を辞めて以来、母の介護に明け暮れており、介護疲れによる計画的な犯行だと供述していた。
佐方に着く事務官の増田は、この事件を担当した刑事部の矢口検事との摩擦を懸念する。
感想
「佐方貞人シリーズ」の第4弾。
現時点での最新刊です。
読みはじめてすぐに違和感を…
佐方の事務官って、新人の女性じゃなかったっけ?と思ったのですが、それは中山七里さんの『能面検事シリーズ』でした。
刑事ものはたくさんあるのですが、検事ものは少ないので混同してしまいました。
収録順では最後の第4話になるのですが、『信義を守る』はなかなか重い話。
認知症が進んでいく母親と、介護に疲弊していく息子…
他人事ではありません。
少なくとも子供に迷惑をかけたくないと思いますが、こればっかりは…
殺害後、徒歩で逃走したと言うにも関わらず、2時間後にわずか5km先で身柄を確保された被告。
円満退職だったのに、会社でトラブルを起こして辞めたと嘘を吐くのはなぜか?
佐方が見つけ出した真実は、これまで警察、検察が描いたストーリーとはまったく異なるものでした。
しかしながら、道塚にしてみれば、当初の求刑よりも辛いものだったかも。
また、刑事部のエリート検事・矢口との間に軋轢が生まれることに。
検察官に関わらず、そこまでして信義を守りとおせる人がどれくらいいるのだろう?と考えてしまいます。
自分の正義感に反しても、長いものに巻かれるのは楽ですからね。
反面、佐方のような人物が、組織の中でやっていけるのだろうかとも思ってしまいます。
やはり、小説の中の話なのでしょうか…
収録作品
『信義を守る』のほか、『裁きを望む』、『恨みを刻む』、『正義を質す』が収められています。
『裁きを望む』
資産家の郷古勝一郎の通夜の日、芳賀渉は郷古家へ侵入し窃盗を働いた罪で起訴されたが、裁判の途中で芳賀は勝一郎の実子で、盗んだとされる高級腕時計は勝一郎から譲り受けたものであることが判明する。
検察官の佐方貞人は無罪論告をおこない、芳賀は笑顔を見せた。
『恨みを刻む』
武宮美貴は小学生の娘を小学校に迎えに行く途中、覚醒剤所持で2度の逮捕歴を持つ室田が車の中で恍惚とした表情を浮かべているのを目撃。警察に相談したことから室田の逮捕に繋がった。
佐方は、その日は運動会の代休で小学校は休みだったのではないかと疑問を呈す。
『正義を質す』
地元広島に帰省した佐方は、司法修習生時代の同期・木浦と会う。
木浦は、現在佐方が担当している暴力団仁正会のナンバーツー・溝口の保釈を認めなければ、広島で市民を巻き込んだ大規模な抗争が起きる可能性があると言う。
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