シェフ2人、ソムリエ1人、ギャルソン1人で営業する〈ビストロ・パ・マル〉。
少しクセのある人間だが、シェフとしては1流の三舟が創り出す料理に、今日も客たちが舌鼓を打つ。
そんな〈ビストロ・パ・マル〉にも、コロナ禍の波が訪れる。
さらに、コロナ禍が一段落したと思ったら、ウクライナ危機と円安の影響で、仕入れ価格が上昇してしまう。
近藤史恵さんの『間の悪いスフレ』を読みました。
あらすじ
高築智行の従兄・畠中博巳が、高築がギャルソンをしている〈ビストロ・パ・マル〉で、彼女にプロポーズしたいと相談を持ちかけてきた。
プロポーズに成功したら、花束を持ってきて欲しいというのだ。
畠中がプロポーズをしたのは、間の悪いことにデセールのさくらんぼのスフレを出す直前。
焼きたてのスフレは、冷めるにつれしぼんでいってしまう。
感想
「ビストロ・パ・マルシリーズ」の第4弾です。
現時点で発行されている最新刊です。
7編の掌編が収められた連作短編集になっていますが、2作目の『未来のプラトー・ド・フロマージュ』で、コロナ禍に突入。
飲食業で、アルコールも提供する〈ビストロ・パ・マル〉はそのあおりをもろに受けてしまいます。
テイクアウトを始めてってところまでは、多くの店が検討、実施したことだと思いますが、普段フレンチに興味のないオーナーが思いついたのが、閉店時間が早くなった店の厨房を使った料理教室。なかなかの切れ者です。
コロナ禍が一段落したあとは、ウクライナ侵攻と円高。
食材は鮮度を優先するために国内産のものを多く使用している〈ビストロ・パ・マル〉ですが、チーズやワイン、フォアグラや鴨などはフランスから輸入。
国内の食材も物価高で値段が高騰しているため、メニュー作りや価格設定に頭を悩ませています。
価格を「時価」と表示できる店ならともかく、〈パ・マル〉はビストロですからね。
でも、三島シェフが利益まで考えながらメニューを作っているので、オーナーとしてはやりやすいのではないでしょうか。
それにしても、〈ビストロ・パ・マル〉のスタッフたちは、何年くらいここで働いているのでしょうか?
ギャルソンの高築くんは、大学出たてくらいのイメージなのですが、今回の作品だけでも、コロナ禍前からウクライナ侵攻の発生まで、3年くらいは経っている計算です。
従兄の博巳が33歳とのことですから、それよりは若いのでしょうが、20代後半から30歳前後?
シリーズ初期の頃よりも、ギャルソンとしての振る舞いを安心して見ていられる気がするのですが、近藤史恵さんはそのあたりも計算しておられるのでしょうか?
収録作品
表題作のほか、『クスクスのきた道』、『未来のプラトー・ド・フロマージュ』、『知らないタジン』、『幻想のフリカッセ』、『モンドールの理由』、『ベラベッカという名前』が収められています。
クスクスのきた道
常連客の早川夫妻が、娘の高校合格祝いを店でやることに。
しかし、娘の結莉亜は不機嫌な様子。不機嫌な理由は、店に来る前に観たオペラにもあるようだが…
未来のプラトー・ド・フロマージュ
コロナ禍が直撃した〈ビストロ・パ・マル〉は、テイクアウトをはじめることに。
すると、中学生くらいの男の子が買いに来るようになったのだが、高築は彼が河原で隠れるようにしながら料理を食べているのを目撃する。
知らないタジン
コロナ禍により店の売り上げが落ちたことを不安視したオーナーは、志村シェフによる料理教室をはじめることを決める。
北アフリカで使用されるタジン鍋が店にあることを見つけた生徒が、タジン鍋を使った料理を教えて欲しいとリクエストする。
幻想のフリカッセ
兄弟で店にやってきた客が、若鶏のフリカッセを食べて、母の味だと言い出した。
しかも、ある日を境に母は料理が下手になったと言うのだが…
モンドールの理由
近所で3軒のフレンチレストランを経営する羽田野が若手料理人を連れて来た。
フランス料理に希望を持てなくなったため、店を辞めたいと言っているらしい。
ベラベッカという名前
雑誌などにも掲載されるフレンチレストランのシェフ・横尾が店を訪ねてきた。
横尾の店はスタッフが定着しないため、同じメンバーで何年も営業している〈ビストロ・パ・マル〉に、秘訣を教えて欲しいと言う。
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