人はなぜ罪を犯すのか?
知恵だとか欲だとかを身につけた人間だからこその行為なのか?
犯罪者の心理に迫る短編集。
「山本周五郎賞」受賞、「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」国内部門1位。史上初のミステリ3冠!
米澤穂信さんの『満願』を読みました。
あらすじ
苦学生だった藤井は、20歳の冬に下宿が火事になり、新たに鵜川家に下宿生として受け入れてもらった。
主人の重治の妻・妙子は、実家からの仕送りが遅れたときにこっそり下宿代を立て替えてくれるなど、感謝してもしきれない相手だった。
しかし、藤井が弁護士になり、独立してはじめての仕事が、殺人罪で起訴された妙子の弁護だった。
感想
「山本周五郎賞」受賞、「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」国内部門1位と、史上初の3冠を達成した作品だそうです。
6編の短編が収められていますが、確かにどの作品も面白く、考えさせられる作品になっていました。
犯人を探すとか、殺害方法を解き明かすといった内容ではなく、そこに至った経路を解き明かすといったもの。
米澤穂信さんらしいですね。
人間が身につけた知恵だとか欲、煩悩といったものがなければこうはならなかっただろうなと思う作品ばかり。
人間の愚かさを改めて感じさせられた気がしました。
個人的に1番印象に残っているのが『関守』。
ちょっとオカルト系の話で、ホラーが苦手な私はその時点で少し心拍数が上がっていたのですが、事故死した人たちの名前が…
まず、1番最近事故死した人の名前が前野拓矢。
次男と同じ名前!
この「矢」を使っている人は珍しく、初めて見たと、ここまでは喜んでいたのですが、その前に事故死した人の名前が田沢翔。
長男の名前は翔太なんですよね。
まさかと思いながら読み進めていくと、4年前に事故死した人の名前が高田太志。
なんと、子供たちの名前が揃ってしまったではありませんか。
ここまでの偶然ならそこまで怖がらないのですが、子供たちの名前は命(死)と関係ある名前なんですよ。
長男が生まれる前に1人流産していたので、「太」という字は「一人」に点を組み合わせたもの。
また、長男と次男の間に1人死産しているので、次男の「矢」という字は、はらいのあとに「二人」。
長男の方は後付けですが、次男は狙ってつけました。
もちろん意味はあって、矢尻が空気を切り裂いていくように、開拓の先頭を切って道を切り拓いていってほしいという思いを託しました。
2人には何も言っていませんが、生まれてこなかった子たちの分まで幸せになってほしいという願いも込めています。
そんなわけで、この『関守』という短編が怖くて…
背筋をゾクゾクさせながら読んでいました。
収録作品
表題作のほか、『夜警』、『死人宿』、『柘榴』、『万灯』、『関守』が収められています。
夜警
警察学校を卒業して間もない、交番勤務の川藤が殉職した。
妻を人質にし、ナイフを手に向かってきた男を射殺したのだが、川藤もまた喉を切られて同士討ちになってしまったのだ。
死人宿
2年前に失踪した恋人・佐和子の居所をようやく見つけると、山深く分け入ったところにある温泉宿で仲居をしていた。
再会したその日、温泉の脱衣所に、封筒に入った遺書が残されていた。
柘榴
美貌に恵まれたさおりは、大学のゼミで出会った佐原成海と結婚し、2人の娘をもうけたが、上の娘が高校へ進学するタイミングで離婚することに。
親権を得られると思っていたが、娘たちが選んだのは成海だった。
万灯
総合商社に勤める伊丹は、バングラデシュの天然ガス資源開発のため、開発室長として現地に乗り込む。
しかし、伊丹が開発拠点として目をつけた村の長老の1人が首を縦に振らない。
関守
「交通系都市伝説」の取材のために、この4年で4件、5人の死者を出した峠道のカーブを取材するため、事故現場近くにあるドライブインのおばあさんから話を聞くが…
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