【読書】湊かなえ『人間標本』

湊かなえ ├ 湊かなえ

「人間の標本を作りたい」
生物学者の榊史朗の父で画家の榊一朗は、勲章を授与された際のパーティーのスピーチでそう発言し、勲章を返還させられた。
「人間の標本を作りたい」
その思いに駆られた史朗は、実の息子を含む6人の少年の標本を制作。
事件の発覚直後、史朗は手記をインターネットに投稿した後警察へ出頭し、一審の死刑判決を受け入れるが…

湊かなえさんの『人間標本』を読みました。

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あらすじ

画家の榊一朗が山の中にアトリエを構えたことで、息子の史朗は蝶に囲まれた幼少期を過ごす。
史朗が小学1年生の時、一朗から蝶の標本作りを学び、蝶が見た景色と標本を合わせた作品を夏休みの自由研究として提出する。
その史朗の作品に魅せられたのが、後に画家になる一之瀬留美だった。
25年後、留美は後継者候補の少年6人を集めるが、その中の1人に史朗の息子・至が含まれていた。
そして、この6人を使って、「人間標本」の制作がはじまる。

感想

少年たちを標本にする様子も描かれているのですが、グロテスクなことをしているはずなのに、坦々と書かれているためか、すらすらと読めてしまいます。
もう少しグロテスクな描写でもいいんだけどと思いもするのですが、坦々と書かれていることが、史朗の異常性を強調しているように感じました。
本当は、そこに大きな理由があったのですが、その時には見破ることができませんでした。

史朗が子供の頃に初めて作った標本が蝶の標本。
蝶の標本は良くて、人間の標本はなぜダメなの?と、試されているような気持ちになりました。
魚は食べていいけど、クジラは人間と同じ哺乳類だからかわいそうとか、同じ哺乳類でも、牛は食べてもいいけどクジラはなんでかわいそうなの?とか…
命に大小があるのかと問われているような…

画家である一朗が言った「人間の標本」の意味とは…
“血”なのかと思いましたが、芸術家ならではの表現だったんですね。
でも、芸術家が考えることは、常人の考えを遙かに超えていて…

話の展開としては、それほど特別なものではないのですが、結末に向けて思いもよらぬ展開が続き、驚きの連続。
先入観を上手く使われたのかな?

蝶の目は、紫外線を含む4原色で見えているという話も面白かったです。
重要なファクターでもあるのですが、はじめにその話が出てきたときに、インコの目も4原色で見えているという話を思い出しまして。
その話を聞いたときは「ふーん」って感じでしたが、この作品の中で具体的なイメージを掴むことができました。
私の部屋にはサザナミインコがいますが、どんなふうに見えているんでしょうね。

人間を標本にするという、グロテスクな話なのですが、描写からはグロテスクな感じを受けません。
人間が芸術作品に飲み込まれていくといった感じでしょうか。
読者の先入観をうまく利用したストーリーになっていて、ミステリとしても面白いですし、芸術的な話も多く、想像力をかき立てられました。

機会があれば是非!

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