中山七里さんの『ヒポクラテスの試練』を読みました。
あらすじ
元東京都議会議員・権藤要一が肝臓がんで死去した。
しかし、城都大附属病院の医師・南条は、がんの進行が早すぎるとして、旧知の間柄である法医学者・光崎藤次郎に相談を持ちかける。
光崎は権藤の死体を解剖し、突然変異したエキノコックスを見つけ出す。
さらに、権藤と同様の症例の患者を探した光崎は、東京都の元職員・蓑輪義純に目をつける。
感想
はじめに…
寄生虫など、虫が苦手な方は読まないほうが良いと思われます。
私は虫全般は大丈夫。寄生虫に関しても、文章ならなんとか…って感じなのですが、中山七里さんの見事な描写のせいで、背筋がゾワゾワとしてしまいました。
『ヒポクラテスの誓い』、『ヒポクラテスの憂鬱』と、光崎教授の見事な見識で本当の死因を暴いてきたこのシリーズですが、今回はちょっと雰囲気が違います。
確かに、光崎の見識によってエキノコックスを見つけ出しはしましたが、その後は光崎に仕える栂野真琴とキャシーの物語になっています。
光崎はというと、突然変異したエキノコックスによる死者をこれ以上出さないようにするために奔走。
真琴や古手川刑事をあごで使っているいつもの光崎は消え失せています。
名声のためではなく、人のために働く、そんな姿勢が清々しく感じられる作品になっていました。
物語の方は、かなりストレートな展開。
権藤と蓑輪の接点を1つ見つけ出せたと思ったら、それが当たり。
真琴とキャシーの捜査も、行く先々で正解を引き続け、どんどん前進していきます。
そんなにうまくいくかなぁとも思いましたが、捜査が難航すれば物語がどんどん長くなってしまいますし、一刻を争う事態に立ち向かう話としては、スピード感があって良かったのかもしれません。
ただ、時だけが過ぎていくという、焦れったい時間があっても良かったかな?と思いました。
読んでいて首をかしげたのは2ヶ所。
まず、蓑輪の死体を解剖することを遺族に承諾させた場面。
あの口説き文句で落ちるかなぁ?と思ってしまいました。
もう1点は、仲間の議員たちが口を割らなかった理由。
確かに大きな秘密ではありましたが、命と引き換えにするほどのものだったのかなぁ?と…
最後の10ページでどんな秘密が出てくるのかと期待したため、ちょっと期待外れでした。
とはいえ、スケールの大きな作品になっていましたし、これまでの作品とはちょっと視点が違っていて、面白かったです。
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