中山七里さんの『アポロンの嘲笑』を読みました。
あらすじ
平成23年3月16日、東日本大震災の5日後に、福島県石川郡で殺人事件が発生した。
手すきの警官がいなかったため、刑事課の仁科係長自らが被疑者の移送にあたることになったが、余震で一瞬警戒心が途切れたのを突かれて、加瀬邦彦に逃走されてしまう。
偶然自衛隊のヘリコプターからの映像に映った加瀬は、福島第一原子力発電所方面へ逃走していた。
さらに、テロ対策を担当する警察庁公安部からも刑事がやってきて…
感想
今のところ、どのシリーズにも属していない作品です。
中山七里さんの作品では、シリーズ外の作品でも、お馴染みのキャラクターが登場することが多々ありますが、この作品ではそれがありません。
その1番の要因として、3.11の東日本大震災直後の福島を描いていることが挙げられると思います。
中山七里さんの作品は、関東圏を舞台にしたものが多いので、福島に馴染みのあるキャラクターがいなかったのかなと。
原子力発電所、そしてテロを描いた作品として、頭の中に思い浮かんだのは、東野圭吾さんの『天空の蜂』でした。
『天空の蜂』では、自衛隊のヘリコプターがハイジャックされ、若狭の原子力発電所上空へ。
ヘリコプターを墜落させたくなければ――という作品でしたが、この作品とは1つ大きな違いがあります。
それが、3.11の前に書かれたか、後に書かれたかということ。
当然、3.11の後に書かれた本作品の方が、リアルな恐ろしさが襲ってきます。
どちらも原子力行政への警鐘を鳴らすべく書かれた作品だと思いますが、喉元過ぎればなんとやらというやつでしょうか。
原発の再稼働、運転期間延長の方向に舵を切ろうとしているのを見ると、苦々しい思いがしてきます。
この作品の中でも、「今は頬かむりをして嵐の過ぎ去るのをじっと待っているが、ほとぼりが冷めたらまた再稼働させようとするに決まっている」という台詞が出てきます。
10年近くも前に書かれた小説で予言されていることを、そのままの形で実行しようとしている日本の頭脳は、10年間何をしていたの?と言いたくなってしまいます。
読んでいると、頭の中に映像が浮かんでくる作品。
それほど描写が素晴らしいのですが、このまま映像化しても面白いんじゃないかなと思いました。
ただ1点気になるのは、防護服なんて放射線の前ではたいして役に立たない。気休め程度のものだと強調しておきながら、テロリストがどうやって高レベルの放射線を浴びる環境に入っていったのかな?というところです。
”自爆テロ”の1つと言われればそうなのかなとも思いますが、この1点だけが少し引っかかりました。
今読むべき1冊だと思います!
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