赤川次郎さんの『晩夏』を読みました。
61歳の沢柳将司はひと夏を大きな山小屋のようなロッジで過ごしていた。
TVドラマの撮影のため、2週間ロッジに泊まっていたクルーたちは東京に引き揚げ、タレントの佐田マモルだけが夏休みを過ごすためにロッジに残っていた。
そのマモルとロッジの従業員である仁美が恋に落ちたのだが、岡野仁美の父親がロッジの女主人・尾田克代の亡くなった夫で、母親は元秘書という複雑な家庭環境で生まれ育った女性だった。
一方、マモルとの関係が冷え込んできた女優がロッジにやって来ることに。
2人の関係を追ってTV局のリポーターたちもやってきたものだから、ロッジは大騒ぎに。
経営コンサルタントの宮川貞一の妻・美智枝と娘・久美子、久美子の家庭教師の工藤の三角関係など、晩夏のロッジを舞台に男女の思いが交錯する。
第一印象は「読みづらい」というものでした。
いつもの赤川次郎さんのように、答えをすべて用意してくれるのではなく、読者が考えて、読み取っていかなければならないような書き方。
避暑地という舞台設定や、ちょっとお節介な老紳士の目線で語られる序盤は、アガサ・クリスティーをイメージしてしまいました。
だんだんと、いつもの赤川次郎さんらしい文章になっていくのですが、出だしのインパクトが強く、「何か違った作品」という期待を持たせてくれます。
この作品は、「恋」が1つのテーマになっていると思いますが、当人たちの、周りが見えない様子と、周囲からの客観的な視点が対照的に描かれているのが印象的でした。
恋を「熱病」と例えている場面がありましたが、まさにそんな感じ。
傍目から見ると、恋というのは必ずしも美しいものではありませんが、傍目から見ても美しいと思える恋と、醜い恋を対照的に描いているのも印象的だったでしょうか。
正直、後味の悪さも残る作品でしたが、『晩夏』というタイトルには相応しいものだったのかもしれません。
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