赤川次郎さんの『三毛猫ホームズの懸賞金』を読みました。
あらすじ
どこにでもいるサラリーマン・矢崎俊男は、妻に「俺は狙われているんだ」と言い残して家を出たあと、バスの中で刺されて死亡した。
一方、一発屋の演歌歌手・百瀬太朗の地方公演前、マネージャーの立木ルミ子の携帯に〈百瀬にしっかり歌わせろ。やる気のない歌だったと思ったら、百瀬を殺す〉とのメールが届いた。
その日は百瀬をのせて乗り切ったが、後日、百瀬が1曲披露したパーティーで、やる気のない歌を披露した辻村涼が殺害された。
ルミ子の高校の同級生で、警視庁の刑事である片山義太郎は、愛猫のホームズの力を借りながら、姿の見えない犯人を追う。
感想
「三毛猫ホームズシリーズ」54作目になるそうです。
1作目の『三毛猫ホームズの推理』では、血を見てはひっくり返り、高い所では足がすくみ、若い女性を見ると貧血を起こす…と、頼りない刑事どころか、頼りない男性の見本市のような書かれ方をしていた片山刑事ですが、この作品の登場シーンはちょっとカッコいいんです。
その後も、テキパキと指示を飛ばしたりと、まるで別人を見ているかのよう。
でも、やっぱり抜けているところがあって、妹の晴美や飼い猫のホームズの助けを借りることになるのですが、今回はこの2人(1人と1匹)の出番が少なかったような気がするのは、気のせいでしょうか?
最近の「三毛猫ホームズシリーズ」では、その時々の社会問題が取り入れられているように思うのですが、今回取り上げられたのは、ネット社会と、バーチャルとリアルの話。
「ネットの中が〈現実〉に思えると、この実際の世の中の方が、架空の世界に見える」と言うのは、決して小説の中の話ではない気がします。
ネットの中での評価が気になって、現実世界での行動が歪められた例というのは、いくつも頭に浮かぶのではないかと…
矢崎の周囲で起きていく一見無差別に見える殺人事件と、百瀬を中心とした歌にまつわる話の2つが、大きな柱になっているのですが、最後まで読んでみると、赤川次郎さんが設定したテーマがはっきりと見えて面白かったです。
バラバラなように思える2つの柱ですが、共通したテーマに沿っていたんだなというのがよくわかります。
あれもこれもと欲張りすぎて、テーマが見えにくくなってしまうこともありますが、今回は明快だったのではないでしょうか。
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