プロ奏者になる夢なんて、とっくに忘れたはずだった。
高校生の雨宮大夢は、隣の家に住む世界的なチェロ奏者ルカ・デリッチからチェロの手ほどきを受けていたが、家に楽器を買うような金はなく、高校卒業後は介護の専門学校を志していた。
しかし、デリッチが母国クロアチアでチェロの国際コンクールを新設したことで、大夢の人生も大きく変化する。
愛野史香さんの『天使と歌う』を読みました。
あらすじ
高校3年生の雨宮大夢の隣には、身体が不自由になって引退を余儀なくされた世界的なチェリスト、ルカ・デリッチが住んでいた。
デリッチからチェロのレッスンを受けていた大夢だが、家に楽器を買うような金はなく、デリッチのために高校卒業後は介護の専門学校へ進学することを志望していた。
しかし、そのデリッチが母国クロアチアに帰り、国際音楽コンクールを新設したことで、大夢は2年後のコンクールを目指すことになる。
感想
『あの日の風を描く』で角川春樹小説賞を受賞した愛野史香さんの、受賞後第1作です。
久しぶりに単行本を購入しました。
文庫本は年に何冊か買うのですが、単行本は私の他に家族2、3人が読むかな?って思ったときに買うくらい。
今回はデビュー2作目ということで、家族に勧められるかどうかわかりませんでしたが、『あの日の風を描く』のインパクトが強烈すぎたので、図書館に収蔵されるのを待ちきれず、発売日に購入してしまいました。
愛野史香さんのSNSを見ていると、前作は賞を獲るために書いた部分があるけれど、この作品は自分が書きたいことを入れることができたというようなことを書かれていたため、そのあたりも楽しみにしながら読ませていただきました。
愛野史香さんは薬剤師さんなのですが、途中に専門知識が挟まれていて、思わずニヤリ。
また、前作で大きな意味を持っていた「風」という言葉も登場していたのですが、あれは意図的だったのかな?
作品としては、大夢がチェロの国際コンクールに挑む話なのですが、この手の作品の難しいところが、演奏をどう読者に伝えるかというところです。
特に、この作品は大夢の視点で書かれているため、どう描くのかな?と思ったのですが、そう来ましたか…
この方法なら、クラシック音楽に詳しくない人でも想像できちゃいますよね。
2作目にしてこの難問に挑めたのは、この表現方法を思いついたからなんだろうなぁと思いながら読ませていただきました。
前作と共通しているなと思ったのが、余白の使い方。
私は詳しくないのですが、1次予選の課題曲となったバッハが書いた楽譜には、演奏者向けの指示がほとんど記載されていないのだとか。
その余白を演奏者がどう埋めるのかといった部分が、前作と共通しているように感じました。
大夢が進路を変えるところなど、もう少し丁寧に書いてほしかったかなと思うところはありましたが、その部分にしても、意図的だったのではないかとも感じられます。
デビュー作ですでに大物になる予感をさせてくれた愛野史香さんですが、今後も安定して良い作品を出していかれるのではないかな?と期待させてくれます。
機会がありましたらぜひ!
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