元レーシングドライバー太田哲也さんの『クラッシュ:絶望を希望に変える瞬間』を読みました。
2001年に出版された本で、ずっと、ずーっと前からこの本の存在を知っていましたし、図書館に置かれているのも知っていました。
でも、手を出すことができなかったんです。
太田哲也さんはレーシングドライバーとしての才能だけでなく、ある悲劇的な事故の被害者としても知られています。
1998年の全日本GT選手権(JGTC)第2戦、大雨の富士スピードウェイでフォーメーションラップが2周目に入った直後の事故で乗っていたマシンが爆発炎上、全身の40%に熱傷を負ってしまいました。
実は、私が初めてAUTO SPORT誌(モータースポーツの情報誌)を手に取ったのがこの事故を報じた号でした。富士スピードウェイのメインストレートの左右で炎上するマシンの写真を見た時の衝撃は今でも忘れられません。
当然、事故の原因は1つというわけではなく、当日の気象状況(視界不良)や、マシンの隊列を先導していたセーフティカーの速度など、いろいろとあったようですが、主催者側が十分な調査をせずに記者会見を行った結果、その場で記者から他の出場ドライバーたちの証言と食い違うことを指摘されたり、虚偽の証言が行われたりと、後味の悪いものになりました。
また、太田哲也さんからレース主催者の対応に問題があったとして訴訟が起こされたのですが、その際、「主催者に責任を問わない」という誓約書が争点となりました。
当時高校生だった私はそれほど知識があったわけではありませんが、そもそも前方の車両のテールランプすら見えない状況でのレーススタートを決断しておいて(主催者に明らかな非があるにも関わらず)、それはないんじゃないの?って思いで続報を読んでいました。
あとで知ったことですが、この裁判についてはレース関係者からの風当たりも強く、仕事にもありつけない時期があったそうです。
前置きが長くなってしまいましたが、そんな「悲劇」を読む勇気がなくて、これまでこの本を手にすることができませんでした。
しかし、いざ読んでみると、つらいことのはずなのにとても明るい語り口で自分の身に起きたことを書いておられ、読みやすい作品に仕上がっていました。
とはいえ、太田哲也さんの目の前に立ちはばかったのは非常につらい現実。
精神が現実についてこなかったり、自殺を考えたり…そんな中から生きる希望を見出すところまでが書かれています。
時に自分の身に置き換えたり、同調したり、異を唱えたりしながら読ませていただいたのですが、やっぱり前向きでおられるんですよね。
私も前向きに生きないとなと思わされた1冊でした。
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