政治犯として捕らえられたミャンマー人が、監獄の中で描いた一風変わった絵…
ハングルがぎっしり書き込まれたアドレス帳を拾った美大の事務職員…
郷土では各家に人形が飾られているというフィリピン人と出会った人形作家…
モンゴルで記憶を失った有名写真家の娘…
東アジアのアートに関する5つの話を紡いだ短編集。
一色さゆりさんの『光をえがく人』を読みました。
あらすじ
かつて「日本一暑い街」として知られた街に佇む1軒のミャンマー料理店。
その店内には、檻に入れられ、頭から樹木が生えた男の絵が飾られていた。
店主曰く、その絵は友人が監獄で描いたのだという。
感想
普段は美術が前面に出た作品が多いように思う一色さゆりさんですが、今回の短編集は人間が前面に出たものばかりだったように思います。
美術はあくまでも物語に色を添える程度。ちょうど『光をえがく人』のミャンマー料理店に飾られた絵のようですね。
あと、どの作品も国内だけに留まらず、海外に舞台が拡がっていたのですが、これは意図的なのかな?
美術品というのは、国境を越える力がある、ボーダレスなものと言えると思いますが、そのあたりを言いたかったのかな?と思いました。
表題作のほか、『ハングルを追って』、『人形師とひそかな祈り』、『香港山水』、『写真家』が収められています。
『ハングルを追って』
美大で事務職をしている久崎江里子は、遊歩道のベンチに置き忘れられたハングルで書かれたアドレス帳を見つける。
江里子は在日3世の油画科の助手・早瀬海子と共に、アドレス帳に書かれた住所を訪ねる旅行に出る。
『人形師とひそかな祈り』
山里に工房兼店舗を構える人形師の若柴正風は、近所の畑に技術研修で来ているフィリピン人・ノアと知り合う。
ノアの出身地では、ブルールと呼ばれる人形が飾られているのだという。
『香港山水』
香港で夫と暮らす彩華は、夫の指示で「香港という街を山水に見立てた、現代の水墨画家」と称される成龍の作品を買い求める。
しかし、アートフェアのパーティーに出席したことをきっかけに、夫からDVを受けることになってしまう。
『写真家』
小鳥遊映子の父でカメラマンの明は、家を出て世界を放浪しながら写真を撮っていた。
しかし、モンゴルのウランバートルで寒空の下酔ったまま寝てしまい、記憶を失ってしまった。
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