赤川次郎さんの『月光の誘惑』を読みました。
女子高生の朝倉美紀は、自殺するために海へ向かった。
しかし、そこで知り合った若いお母さんが、「その子、涼子っていうの」と言い残し、美紀の目の前で崖から飛び降りた。
15年後、美紀に育てられて高校生になった涼子の身のまわりに、変化が起き始める。
祖父が亡くなり、祖母は入院。涼子を訪ねて来た見知らぬ男性がバスに轢かれたり…
プロになるほどではないものの、プロの演奏家のレッスンを受けてめきめきとピアノの腕を磨いた涼子は、演奏会でベートーヴェン作曲のピアノソナタ『月光』にチャレンジすることを決意する。
「重い作品」というのが、第1印象でしょうか。
赤川次郎さんの特徴である、そこかしこに散りばめられたユーモアは姿を消し、人の命や人生の重さがのしかかってきます。
重いテーマや、人の醜い部分(裏返せば本能)が、これでもかと言わんばかりにヒロインを襲います。
この作品では、朝倉涼子がヒロインであることはすぐにわかりますが、読んでいるうちに、母の美紀とのダブルヒロインになっていることがわかってきます。
女子高生に背負わせるには重すぎるテーマを、母の美紀に背負わせることで、女子高生1人では表現しきれない世界を描ききっています。
いつものユーモアサスペンスに比べると、少し覚悟して読まなければならない作品になっていますし、気軽にもう1度読もうと思えるような作品ではないかも知れません。
しかし、読書ってこんなに面白いんだなってことを思い出させてくれる1冊になっています。
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